何かの糞が落ちてきた

動物園を歩いていると、何かの糞が落ちてきた。右腕の、ちょうど予防接種の辺りに直撃した。未消化だ。ひどい。狙っただろ。
公衆トイレで服を着たまま腕を洗った。びちょびちょだ。そのままブンブン振り回して脱水した。子連れママに怪しまれた。
モルモットを観察してすぐ帰ろう、と思った。
モルモットは可愛い。メルヘンだ。ガラスケース越しだが、ふわふわで、ちっこいのもいる。胴長短足だ。
ああ腕がつめたい。
人目などどうでも良くなってきた。鳴き真似する。「ポイポイポイポイ…」隣にいたお兄さんは無言で立ち去った。ああお兄さん。ワタシコワクナイヨ!デモ、スゴクアヤシイヨ…
やけくそな気分になった。
そんなことをしていると、小学生の大群が押し寄せた。包囲された。ああなんて(右腕以外は)メルヘンなのだろう。小学生は元気いっぱいだ。たのしいね。遠足だね。みんな笑顔だね。
と、ひとりの少年が私の右腕をつかんできたではナイカ──。
少年「…………え?」
なぜそこをつかむのだ、と思った。
少年「…………どうしてつめたいの?」
わたし「……。えっと…、洗ったんだよ(ウン○落ちてきただなんて言えない)」
少年「……ふうん」
わたし「…………」
少年「これなあに?」
わたし「モルモットだよ」
少年「うさぎ?」
わたし「ネズミの仲間だよ」
普段から甘えるのが上手な子なのだろう。別に私の腕がびちょびちょだからつかんできたわけじゃない。人懐こい少年のつかんだ腕が、たまたまびちょびちょだっただけだ。
しばらくして少年は私の前を駆け抜けて行った。それまでずっと、彼は私の右腕を離さなかった。